ReReRe Renovation!

ディープな日本と世界をつなぐ
商店街のミシンカフェ&宿

カフェ&旅館/シーナと一平 東京都豊島区

シーナと一平ってどんなところ?

小野 有理

Writer小野 有理

「その土地のリアル」を体験するかたちへ、旅行はシフトしています。Airbnbの「暮らすように旅する」というコンセプトも、観光から暮らしの体験へ、旅行が変わりつつある証でしょうか。そんなリアルな旅を求める人に人気の町があります。池袋から徒歩15分、昔ながらの小さな個人店が軒を連ねる椎名町です。

 

ここで約50年、地元に愛されたとんかつ店が、リノベーションされ ”宿”として復活しました。「ミシンで地域とつながり、ファブリックで世界とつながる」というコンセプトのもと、シェア・ミシンを置いた1階のカフェと5つの客室を持ち、まちづくり会社の「家守舎 シーナタウン」が運営しています。「こんな人が住んで、こんな歴史があって、こんな美味しいご飯がある…」。そんなローカル情報を集めて、地元の人も海外旅行客も一緒にわいわい集まれる場所にしたい。そんな思いを取材しました。

内観

シーナと一平ができるまでのストーリー

STEP 01 ここから始まった

個人商店が並ぶ通りの風景を守りたい
「とんかつ一平」が生まれ変わるまで

上)小さなお店がずっと連なる商店街。高い建物も少ないので都心でありながら空が広い
左下)「とんかつ一平」の姿。「一平のとんかつはピカイチ」と評判で、幼少期から一平のとんかつを食べて育った地元の人も
右下)リノベーションスクールに出された時の内観。古びてはいたものの、丁寧に住まわれ、大事に扱われていたことがわかった

空き家率が東京都23区のうち最も高く(15.8% ※総務省調べ)、「消滅可能性都市」ともいわれた豊島区。古くからの繁華街、池袋があるにも関わらず、子育て世帯を中心に人がどんどんいなくなっています。そうした現状を打破したいと区も一生懸命。2015年から積極的にリノベーションまちづくりを推進します。

2015年3月、区民の期待を背負い、豊島区で初めてのリノベーションスクールが開かれました。その事業計画コースの課題の一つに築43年の木造二階建「とんかつ一平」が出されます。「シーナと一平」の前身です。

「とんかつ一平」は池袋から1駅、徒歩で15分ほどの椎名町の商店街にあります。個人店が軒を連ねる「サミット通り商店街」で、長い間、地域の人に親しまれてきました。今は亡き店主、山田さんは1階のお店と2階の住まいを行き来しながら、この町に根ざし、暮らしてきました。

山田さんが亡くなり空いたままだった「とんかつ一平」。しかし、父の想いがつまった場所をなんとかできないか、お店を引き継いだ娘さんはリノベーションスクールに賭けることを決意します。お店の周りには、お父さんが守った「とんかつ一平」のような小さな個人店ばかり。まちの風景を変えずに、一緒に商店街を盛り上げていけるような策が求められていました。

STEP 02 計画を練る

「ディープな日本」を味わう
町全体を"宿"にするプラン

左)海外からの旅行者が喜びそうな焼き鳥屋さん。こうしたお店がたくさんある商店街は活気があって元気
右)リノベーションスクールでのプレゼンの様子

リノベーションスクールで「とんかつ一平」のチームは、海外旅行客に椎名町が人気という事実に目をつけます。パークホテルなどのエグゼクティブホテルに混じって、人気ホテルランキングで堂々ベスト10入りを果たす伝説的な宿があることも分かりました。その宿は細やかなサービスもさることながら「ディープな日本の日常(=椎名町の日常)」が味わえるのが人気のポイント。すなわち、椎名町の日常がそのまま評価されていたのです。

そこでチームが考え出したのが、椎名町をひとつの宿に見立てたホームステイならぬ「タウンステイ」。普通はひとつの宿に「お風呂」「食堂」「寝室」が集まっていますが、それをまちの「銭湯」「レストラン」「宿泊施設」に分散させ、まち全体が宿になるアイディアです。

実は「とんかつ一平」がある池袋は成田や羽田空港からのバスが頻繁に到着し、多くの旅行者が最初に出会う日本の町です。そんな町で「とんかつ一平」をまちの「寝室」と「ダイニングキッチン」にするというチームの案は「時勢をとらえ真っ当」「可能性を秘めている」と賞賛されます。オーナーである山田さんの娘さんも乗り気になり、遂に「とんかつ一平」は動きはじめました。

STEP 03 事業戦略をたてる

プロセスは全て地元に公開
応援してくれる仲間を増やす

上)解体途中でも町の人に開いてパーティ。「シーナと一平」の構想を聞いてもらって出資を募る。大勢が詰めかけ、招待していない人もどんどん入ってきてくれた
左下)左から社長の日神山晃一さん、木本孝広さん、"おかみ"の江本珠理さん、大島芳彦さん、澤田剛治さん。このメンバーでまちづくり会社「シーナタウン」を結成
右下)解体前に開いた「空き家バー」では、通りすがりの海外旅行者が楽しそうな雰囲気につられて入ってきた。町の人と交流して長い時間、楽しんだそう

「シーナと一平」を立案したチームのメンバー木本孝広さんと日神山晃一さんを軸に、ユニットマスターだった大島芳彦(ブルースタジオ)さん、椎名町に生まれ育った澤田剛治さん、そして「都電家守舎」が各々10〜50万円を出し合い資本金100万円のまちづくり会社「家守舎 シーナタウン」を設立します。木本さんも日神山さんも自ら事業を営み、大島さんはリノベーションまちづくりの大御所のような存在。事業化に向けて順調な滑り出しです。

資本金は集まったものの、元とんかつ店をミシンカフェ&宿にするには改修費が想定以上にかかることが分かりました。せっかくなら地元の人々にファンになってもらい出資もお願いできればと、シーナタウンのメンバーは改装前や改装中の「とんかつ一平」でイベントを始めます。

“おかみ”として運営を任された江本さんは「椎名町はライブ感溢れる町。何かを始めると、周りが面白がって手伝いにきてくれます。そんな雰囲気がとても良かった。もっと『シーナと一平』を知ってもらって、町をつくる仲間になりたい」と、改装工事をDIYするワークショップや餅つき大会を開き「シーナと一平」の事業構想をプレゼンする会を開きます。

完成してから町の人にお披露目し成否を委ねるより、過程を公開しながらゴールを一緒に夢見ると完成時には既にファンがついています。実際「シーナと一平」を応援しようと少人数私募債には多くの出資がありました。シーナタウンメンバーからの増資に加え、応援者からの出資で無事にリノベーション費用を捻出。「シーナと一平」はコンセプトを形にする準備に入ります。

STEP 04 世界と町とつながるしかけ

ファブリックで世界とつながる、
ミシンで町とつながる

上)「シーナと一平」のカフェ部分。土間にはシェア・ミシンが並び、奥の小上がりは畳敷きでゆったりできる。お茶を飲みつつ、気が向いたらミシンで何かつくってみては?
左下)たくさんの布をストック。時が経つにつれて、世界中の布が集まっていくのが楽しみだ
右下)ミシンは出窓に面して配置。細かな作業も日光の明るさの下で行える

プロセスを町に見せながら地元の声を取り込んで成長する「シーナと一平」。その中で「ファブリックで世界とつながる ミシンで町とつながる」というコンセプトが浮かびます。実はファブリックとは縁の深い「シーナタウン」。社長の日神山さんは自身が経営する内装会社主宰のカーテン制作ワークショップで未来の”おかみ”江本さんに出会いました。

実は、単なる宿よりとがったコンセプトを探すうち「どんな民族も布無しでは生きられない、民族・伝統を表す布をテーマにした宿にしよう」と思いついたといいます。メンバーの大島さんは「宿泊費代わりに伝統の布を持ってきてもらったりして、いずれ、世界中の布が『シーナと一平』に集結してる、なんて姿も面白いですよね」とも。

こうしてファブリックは「世界」と「シーナと一平」をつなぎました。では、町とのつながりは?宿泊施設は本来、旅人を泊める場所。地元の町とつながらなくても支障無いように思えます。しかし、町全体を一つの宿と考える「シーナと一平」は町とのつながりが大事です。そこに登場したのがミシンでした。

“おかみ”修行のため地元の人と会話を重ねた江本さん。仲良くなったママの多くが家で裁縫やニッティングなどの手工芸を楽しんでいることに気づきます。彼女たちがオープンスペースで友だちと一緒に手芸できないかな。ミシンをシェアするカフェのアイディアが生まれます。旅人がもたらす布と町のミシンは「シーナと一平」でつながりました。そして、ミシンを使うママは子どもを連れてきます。ミシンは商店街に子どもの声を響かせるきっかけにもなりました。

STEP 05 いよいよスタート!

世界とも町ともつながる宿
2016年3月にオープン

上)商店街の通りから覗いた「シーナと一平」。シャッターが下りて暗かった場所に、また一つ、町の灯がともった
左下)2階の客室。全室、畳に布団敷きのトラディショナルなスタイルだが、布団カバーやカーテンなどに北欧の布を使っている。こういうミックスが「シーナと一平」ならではだ
右下)入口に置かれたフライヤーやフリー地図。近くのお店やイベント情報などをたくさん紹介したいという。英語バージョンもちゃんと揃えて

構想から約半年。「シーナと一平」は2016年3月18日にオープンします。しかし、完成前にもかかわらず、すっかり地域の暮らしに馴染んでいるようです。「宿の小物もワークショップにして、ご近所さんと一緒にミシンを使ってつくりました」と江本さん。お菓子づくりが得意な女性はケーキを、裁縫が得意な人は小物を縫います。「家のミシン壊れちゃったんだけど、もう要らないじゃん。ここで皆で作るのが楽しいよね」なんていう声も。

「試しにカフェを開けたとき、最初のお客様は2人の小学生の女の子でした。以前のイベントに来てくれた子がお友だちを連れてきたんです。その日はここで宿題をして帰りましたよ」と笑う江本さん。また、通りすがりにふらりと入ってくる年配の方も増えてきました。「昔にお裁縫を習った方が多くて、皆さんミシンができるそうです。一緒に何かできないかなと思っています」。

一方、海外からのゲストは「昔ながらのお寿司屋さんやお惣菜屋さんが新鮮なようで面白がってくれます。ここから商店街にお客さんを送り出したい」とのこと。仲良くなった向かいのお惣菜屋のママと、ゲストに出せる朝ご飯も計画中です。「シーナと一平」を軸にして、新しい歯車が回り始めているようです。

「椎名町は発酵食品のような町です。時とともに独特の味が積み重なっていて、その深みがクセになる」と話す社長の日神山さん。ここに暮らす人たちが醸成してきた風味を、「シーナと一平」を拠点に体感してほしい。「実は商店街に暮らす人の顔がちゃんと見えたら、町の流出人口も案外減るんじゃないか。豊島区は消滅可能性都市なんて言われているけれど、まだまだこの町の発酵は人々に受け入れてもらえるんじゃないか、と思っています」と語る日神山さん。いろんな国の言葉と、町の女性が回すミシン音が混じりあう「シーナと一平」。新しい物語が始まります。

小野 有理

Writer

小野 有理

元リクルート、スーモマガジン編集長。編集長として、札幌から福岡まで全国の住まいの現場を見て回るうちに、もっと現場に密着して発信したいと想いが募り独立。セルフビルド、リノベーション、DIY、複数拠点居住、など、住まいと住み手の関係をより深める現場を中心に探索中。東京・京都・長野・南仏での4拠点生活を計画している。

カフェ&旅館

シーナと一平

2017.7.24更新

  • 住所

    東京都豊島区長崎2-12-4

  • TEL

    03-5926-4410

  • URL

    http://sheenaandippei.com/

  • OPEN

    2016年3月18日(金)オープン
    受付:8:00〜10:00、16:00〜22:00

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