ReReRe Renovation!

アートの力で、路地に子どもの笑顔を取り戻す

アーティストレジデンス/nagisArt(ナギサート) 静岡県熱海市

nagisArt(ナギサート)ってどんなところ?

小林 久見子

Writer小林 久見子

nagisArtは、渚+art。「陰と陽」相反する空間に囲まれた立地にnagisArtはあります。物件を出てすぐ目の前、プロムナードの向こうは海。海から昇る朝日を浴び、潮の香りを感じられる「陽」の部分と、昭和の香りが色濃く残る路地裏の「陰」。「創造の場」として、うってつけのnagisArtはアーティストに「住まい」と「アトリエ兼ギャラリー」を提供します。

今は、nagisArtの住人さんらと一緒に、少しずつ、手の届く範囲で物件をリノベーションしています。この渚町で暮らしながら創作活動をして、渚町の魅力を発信していただけるアートな“住人”を募集中です。

写真)路地で子供達が遊ぶ。夢が叶った瞬間(撮影:吉田奈生)

㈱路地に人がいっぱいIMG_2116

nagisArt(ナギサート)ができるまでのストーリー

STEP 01 こんな場所から始まった

不要品の山、でも目をこらせば、
かつての古き良きスナックの佇まい

上)築55年を越す上に8年以上も放置されていたスナックみゆきと、隣のスナック&バーゆき路。
左下)スナックみゆきの店舗は埃が溜まり油焼けした臭いがし、2階住居スペースは日常がある日突然止まったままの姿で残っていた
右下)質屋の倉庫には不要品がぎっしりあふれ、建物の全貌すら分からなかった(撮影:すべて小林久見子)

かつて 大勢の観光客で栄えた熱海市。その海に面した一角、飲食店が軒を連ねている場所が渚町です。中でも、nagisArtは昭和レトロな2階建ての木造長屋が密集するエリアに位置します。この木造長屋の1階にはバーやスナックなどの飲食店が入り、2階は店主や従業員の住まいでした。ここは、夜には都会の喧騒から逃れ海辺で一息つく観光客の談笑で溢れ、昼は住人の笑い声が路地に響く街でした。

しかし、バブル以降の観光客数の急減と、わずかな観光客も駅前商店街の整備によって吸い取られ、渚町はどんどん衰退していきます。平成15年にはかろうじて約60の飲食店が残っていましたがその後の10年間で半減し、渚町の人口も衰退する一方です。新たに入ってくる人もないまま、単身高齢者が多い街となり、かつての賑わいはすっかり影を潜めてしまいました。

そんな中、nagisArtは生まれます。もともとは「スナック“みゆき”(H19年9月閉店)と“ゆき路”(H16年8月閉店)」の2軒が営業していた、築55年・面積84㎡の木造長屋です。その隣は質屋の倉庫でしたが、不要品が天井までぎっしり埋まり足も踏み入れらず、とても手を出せる状態ではありませんでした。

「そんな中でも暗い店内をじーっと見渡すと、贅をこらしたスナックらしい雰囲気を感じとれました」と、大家のなおさんは言います。壁は趣あるレザー調の仕上げが施され、カウンターは大きく立派なものが入っていてポテンシャルを感じたそうです。リノベーションの「良きは取り、悪しきは捨ててとらわれず」の考えで、新築には出せない魅力ある空間にできると、 当初の不安は確信に変わりました。

STEP 02 Plannning

昔ながらの人情味溢れる
路地に着目してみる

上)第一回熱海リノスクnagisArt発案メンバー
左下)3階の住居スペースに残ったかつての住人の落書きが好き、と語る大家のなおさん。

この荒れてしまった元スナックと倉庫を目の前に十数年を過ごしてきた大家のなおさん。どうすればいいのかアイディアも出ず考えあぐねていましたが、「リノベーションスクール熱海(★リンク★)」の課題物件として名をあげることにしました。しかし、実際にリノベーションスクールが始まり、熱海の有志メンバーのディスカッションが進でも、どうなるのか不安しかなかったそうです。

どうしても目の前の建物に考えが狭まってしまうチームメンバーに、講師の大島さん(blue studio)は「このエリアはどんな場所かを定義する」「街の人々が喜ぶ風景って?」などと、エリアの物語をつむぐ大切さを訴えました。そんな中、大島さんが発した「ここの路地がいいね~」の一言。この言葉をきっかけに街に目が行くようになったメンバーたち。アイディアがどんどん溢れ出しました。

「いつしか長屋の路地から子どもの笑い声は消えてしまった。けれど、どこの子どもも”長屋の子”として見守ることのできる人情あふれる住人は変わっていない」。そんなエリアの魅力を再発見したメンバーは「子どもたちと一緒に遊べて、子どもも大人も笑顔にできるアートを主役にした場所をつくりたい」と決意します。生活・創作を兼ねることのできる場所と、木造長屋の人情味溢れるコミュニティをアーティストに提供する。nagisArtの原型はこうして生まれました。

STEP 03 実現化に向けて

まずはお掃除ワークショップを開催!

リノスク関係者の他に、アタミアートウィークの学生も駆けつけてくださり、総勢30名でパッカー車1台と2tトラック2台分のゴミの撤去とお掃除ができました。お掃除の後はユニットマスターのサプライズ!スナックゆき路が開店(撮影:小林久見子)

具体的なプランが生まれたリノベーションスクールからわずか2ヶ月後、熱海のまちづくりNPO法人atamistaの紹介でnagisArtは「第二回アタミアートウィーク(★リンク★)」の展示会場に決定されます。2013年3月開催に向けた同年1月、初めてのワークショップ「お掃除ワークショップ」が開かれました。

「アタミアートウィーク」は若手作家たちが「熱海」をテーマに作品を制作・展示するアートイベントで、熱海で増えつつある空き家や空き店舗を舞台に街の活性化や魅力の再発見を目指しています。この会場としてnagisArtが選ばれたのでした。

リノベーションスクールで出会った人々以外にも、アートウィークを運営する学生も駆けつけ総勢30名で繰り広げた大掃除大会。足を踏み入れる余地もない倉庫も、日常がプツンと途絶えたような住居スペースも、みるみるうちに綺麗になっていきました。そして、道路にはパッカー車1台と2トントラック2台分の大きなゴミの山…。

大掃除の後には思わぬサプライズもありました。リノベーションスクールでチームを引っ張ったユニットマスター(講師)の二人が、きれいに片づいたスナックのカウンターを使ってスナックをオープン!どんな作業にも楽しみを見つけるコツを教えてくれました。

STEP 04 Making

何度も浮上する再開発に負けない。
地に足ついた計画で実現に

上)最年少6歳児は大人顔負けの釘打ちをマスター、左下)1F元キッチンスペースには箱形収納を、右下)要所要所プロが指導に入ってくれて、建築学生らの手によって無事床貼りができた

大掃除によってきれいになり、アートウィークの展覧会場にもなったnagisArt。「いよいよ物件のリノベーションを始められる!」と大家のなおさんも周囲も、期待に胸膨らませていたが、実はなかなか進捗させることができませんでした。

実は、以前からあった路地裏をつぶしマンションにする「渚町の大規模再開発」の話が再び持ち上がっていたのです。そして、この再開発の主要メンバーの一人が、まさかのnagisArt大家なおさんのお父さん。人情味溢れた路地と木造長屋の街並みを活かしたい、というリノベーションスクールのメンバーが見つけたエリアの良さが根本から否定されます。

事業設計などしたことのないメンバーが編んだ事業計画はアラも多く、このままではnagisArtをつくれないと気づいたなおさん。お父さんの心配(反対)にもきちんと応えられるよう、当初の多額のリノベーション費用や初期投資を一から見直し、手持ちの貯金の中で無理なくリノベーションできるように組み直しました。

そして2014年4月、ついにnagisArtの住人が決まります。しかし、住居スペースは完成しておらず、怒濤のワークショップを始めます。カラオケ対応の防音壁には手こずったものの何とか剥がして壁板をつくり、壁や天井にもペンキを塗りました。仕切り壁やバーカウンターの解体、床タイルを剥がして新たな床を貼るなど、ハードなワークショップを立て続けに開催。「参加してくれた方々は『ワークショップの域を超えている!』と言いながらも、笑顔で協力してくれました。本当に感謝しています」と話すなおさんの顔は晴れやかでした。

STEP 05 いよいよスタート

路地に子どもの声が響いた
「古い」を活かすお披露目会

上)お披露目会のnagisArt路地。数十年ぶりに子供が遊ぶ夢の様な光景
左下)ワークショップを開いたり、これまでの成立ちの写真を展示して多くの人を招いた
右下)アーティスト用に空いた一部屋には、もう一方の住人でアーティストの近藤さんの作品を展示

2015年6月、住居スペースもできあがり、満を持してnagisArtはお披露目イベントを開催。完成して初めての大事なイベントは、今までのワークショップに家族で参加してくれていた地元のクラフト作家・齋藤千紗さんにお願いしました。

齊藤さんは、使い込んで古くなった布を最後まで使い切る”サキオリ(裂織)”のワークショップを開くことを思いつきます。昔から受け継がれるものを大事にする文化、裂織。nagisArtも少し前までは使われずにお休みしていた古い建物です。それが「形も用途も変えて復活します」というメッセージを込めたイベントは大盛況!子供も大人も心から楽しんだようです。

イベント参加者は「『裂織・リノベーション【再生】繋がる』。とても感動しました。周りの大人たちが自然に子供たちを見守ってくれていて、懐かしい遊びもできて、娘達が目の届くトコにいるので路地裏にイスを出してひさびさにゆっくりと外で読書♡ 贅沢な時間をありがとう。とにかくリノベーションや街の再生に、とても興味を持ちました」と語ります。ゴールでもある、アートに大人も子どもも夢中になれる路地裏空間、を提供できたなおさんたち。 最初の一歩は大成功でした。

このスタートを切った大家のなおさんは、「一人では何も出来ない私がやり遂げることで、他の大家さんのやる気に繋がれば!」と言います。「やらないよりやってよかった」と行動する大家さんが生まれることが街を光らせ、街の光を観る”観光地”、熱海の再生が進むことを願って、nagisArtは活動しています。

小林 久見子

Writer

小林 久見子

アーティストレジデンス

nagisArt(ナギサート)

2016.3.30更新

  • 住所

    静岡県熱海市渚町15-11

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