ReReRe Renovation!

閉店から奇跡の復活劇 
昭和レトロな大食堂再開の舞台裏

大食堂と商業スペース/マルカンビル 岩手県花巻市

マルカンビルってどんなところ?

手塚 さや香

Writer手塚 さや香

低い天井、年季の入ったテーブルや椅子、卓上の箸立て……。岩手県花巻市のマルカンビルのエレベーターを6階で降りると、どこか懐かしくレトロな雰囲気の食堂が広がります。2016年6月7日に惜しまれながら43年の歴史に幕を閉じたマルカン百貨店でしたが、翌年2月20日にマルカン百貨店のシンボルとも言える大食堂と1階が待望の再開を果たしました。

 

その立役者が、(株)上町家守舎代表取締役の小友康広さん。花巻市で生まれ育った小友さんは1905年(明治38年)創業の老舗木材店の4代目であり、さらに都内のITベンチャーの役員でもありながら、「花巻家守舎」「上町家守舎」というふたつの会社を立ち上げ、リノベーションまちづくりに取り組んでいます。

 

上)昭和の雰囲気が色濃く残るマルカンビル大食堂(写真提供:(株)上町家守舎)
下)お昼時、家族連れや作業服姿のサラリーマンなど多様な人たちで賑わうマルカンビル大食堂と小友さん(撮影:手塚さや香)

冒頭

マルカンビルができるまでのストーリー

STEP 01 こんな場所から始まった

名物大食堂閉店の衝撃

上)1973年にオープンした元マルカン百貨店。現在はマルカンビルとして1階と6階大食堂、近くの駐車場が営業を再開している
下右)シャッターが閉まった店もちらほらと目に付く上町商店街。このアーケードの真ん中付近にマルカンビルは建っている
下左)6階マルカン大食堂の名物ナポリカツ。ケチャップの香りが懐かしいナポリタンの上にカツが乗りボリューム満点で780円(撮影:すべて手塚さや香)

花巻市の中心部である上町。アーケードのかかった商店街の四つ角にマルカンビルは建っています。580席ある6階大食堂は花巻市民なら誰もが行ったことがあるのはもちろん、全国ネットのテレビでも何度も紹介され、10段に巻かれたソフトクリームをお箸で食べる映像は話題になりました。外から来た人にとってはレトロさが新鮮、花巻の人にとっては日常に溶け込んだ存在でした。

ところが2016年3月6日夜、「マルカン百貨店が6月7日閉店」というニュースが地域を駆け巡りました。耐震補強の必要性と老朽化を理由に閉店すると、(株)マルカンがプレスリリースを出したのです。実は、小友さんはニュースが流れる前の2月末に「マルカン百貨店閉店」の噂を耳にし、「自分たちに何か出来ることはないか」と水面下で動き始めていました。花巻家守舎のメンバーを通じて(株)マルカンにオファーし、3月7日に佐々木一社長と面談する約束を取り付けました。

「マルカン百貨店の大食堂は、花巻に遊びに来た友だち100人以上を連れて行った場所で、みんなもれなく感動して帰っていきました。まずは僕自身が大食堂に残ってほしかったんです」と小友さんは言います。子どもの頃は、学校の帰りに友だちと寄り道した思い出の場所です。地元の高校生たちが存続を求めて署名活動を始めるなど、世代を問わず愛されていたマルカン百貨店の大食堂。ここから奇跡とも言える復活劇の幕が上がります。

STEP 02 場所の存続を模索する

愛すべき花巻のシンボルを残すため
リノベーションまちづくりのプロに相談

上)閉店前のマルカン百貨店店内。衣料品店や100円ショップが入居していた(撮影:Real Creations/提供(株)上町家守舎)

佐々木社長との面談前、小友さんが立てていた仮説はこうでした。「大食堂は利益が出ているだろう。きっと1~5階のテナント経営が難しいから閉店するに違いない。だったら僕らが1~5階の転貸権をもらってちゃんと儲かるようにしたら、(株)マルカンに大食堂だけ運営を継続してもらえないだろうか……」。小友さんは、自分たちが1~5階を転貸し、新たにエッジの効いたテナントを入居させるという方法を考えました。2015年2月に「家守ブートキャンプ+リノベーションスクール」に参加して学んだこと、そして「花巻家守舎」としてすでにビル1棟を手掛けた経験がベースになりました。

3月、面談では、何年も前から百貨店閉店を考えていたこと、仮に1~5階を小友さんたちで運営するとしても(株)マルカンは大食堂を続ける考えはないという説明を受けました。そこで小友さんはカードを切ります。「僕らが建物ごとお借りして大食堂の経営を引き継ぐと言ったらどうですか」。――佐々木社長は「正直きついと思う」と答えたものの、拒否はされませんでした。小友さんは1週間の猶予をもらい、可能性を模索するためすぐさま動き始めました。

相談したのは、全国各地で家守事業をプロデュースした経験を持つ清水義次さんら「リノベーションまちづくり」のプロたち。清水さんらのバックアップを受け、「花巻家守舎が引き継ぎの検討を開始し、5月末までに引継ぎが出来るかどうかを公表する」と発表しました。

STEP 03 コスト計算・テナント交渉

全フロアの設備改修や用途変更に6億円。
クラウドファンドで一部調達へ

そしてすぐに、存続に必要なコストの算出と、1~5階に入居するテナントの募集に着手。リノベーションスクールのネットワークを生かして北九州家守舎代表である建築家の嶋田洋平さんにアドバイザーとして協力をあおぎ、花巻家守舎メンバーの高橋潤吉さんが所属する地元建設会社の建設業のプロの助言も受けながら、小友さんが(株)マルカンとの協議やテナントとの折衝、高橋さんが工事に掛かる費用の算出を進めました。

結果、耐震工事のほか、老朽化による冷暖房設備の入れ替えや消防設備の刷新、1~5階の用途変更などで約6億円掛かることが分かりました。一方で、テナント入居には20件以上の問い合わせや提案があり、協議の結果、全フロアが埋まる目処が立ちました。

そこで、3月の記者会見で約束した通り、5月31日にプレスリリースを出しました。そこで公表したのが『引き継ぎは出来そう』『ただし、10年で投資回収は見えておらず、市民やマルカンファンの皆様にも資金的なご協力を頂く必要がある』『ご協力を頂ける前提で、2016年8月末を目処に各所調整を進めていく』(小友木材店ブログ2016年5月31日「【検討結果報告】マルカン百貨店の運営引継ぎについて」より)――の3点でした。6月1日に「花巻家守舎」とは別に、マルカン大食堂を可能な限りそのまま残すための「上町家守舎」を設立することも発表しました。

STEP 04 存続方法のさらなる検討

計画の変更。「大食堂と駐車場のみで再開」を決断

上)寄付のための商品。ポストカード、キーホルダー、ワインから始まりさまざまな商品のコラボの提案があった(撮影:手塚さや香)

この時、必要な約6億円に対し、10年間で回収出来ると見込めたのは約4億円。この差額の約2億円をクラウドファンディングやコラボレーション商品購入による寄付、通常の寄付で埋めようと試みました。並行して「6億円」をどこまで圧縮することが出来るのか、プロの意見を聞きながら試行錯誤を重ねました。

「ファーストミッションは6階大食堂を10年後、20年後も可能な限りそのまま残すこと」。小友さんのこの信念は揺らぐことはありませんでした。検討した結果、選んだ道は全フロアのテナントを埋めるのではなく、まずは6階大食堂と近隣の駐車場のみで営業を再開すること。設備工事や用途変更に掛かる経費を最小限にとどめ、「初期コスト3億円弱、10年間の利益3億円強」という事業計画を立てることが可能になりました。

その結果、クラウドファンディングなど各種の寄付で調達すべき金額は2,000万円となり、クラウドファンドとその他の寄付で約2,100万円を集めることに成功。マルカンを愛するワインソムリエからの提案をきっかけに生まれたコラボレーション寄付商品は、ワインだけでなくマルカン写真集、ポストカード、キーホルダーなどに波及し200万円近い寄付に繋がりました。「コラボ寄付の広がりで『マルカン』ブランドを実感しました。ブランドが商品になり復活への支援にもなる。三方よしの企画です」。

これまでも会社経営に参画してきた小友さんが心配していたのは、経営主体が変わることによって、長年勤めた従業員が引継ぎ後も残ってくれるかということでした。残る可能性のある全員と面談をするなかで、各部門のリーダーを中心に全35名のうちの半数以上が残ることを選びました。さらに8月下旬には大食堂をまかせられる経験豊富なマネージャーも見つかり、晴れて2017年2月復活に向けてスタートを切るに至ったのです。

STEP 05 工事開始

可能な限りそのままに

上)花巻の農家が手掛けるドレッシングやお菓子のコーナー
下左)衣類売り場の横には子どもたちが遊べるコーナーもあり、親子でのんびりと買い物やお茶を楽しめる
下右)木のぬくもり溢れる1階のコーヒースタンド。午前中は、手押し車を押した年配の人たちや小さい子どもを連れたお母さんのくつろぐ様子も(撮影:すべて手塚さや香)

9月中旬からはさっそく再開に向けた工事が始まりました。メインは大食堂の厨房設備の入れ替え、厨房まで雨漏りをしていた屋上の防水塗装、電気設備の刷新の3つでした。大食堂の早期再開を優先させ、耐震工事は再開後の2017年6月頃から設計に着手することとしました。

「可能な限りそのまま残す」との方針の通り、壁や床のほか、テーブルや椅子、食器などはそのまま利用し、客席のレイアウトもそのまま。名物のソフトクリームはその高さ(25センチ)も変えず、価格は180円のままという徹底ぶりです。

当初、大食堂と同時期に稼動するのは駐車場のみの予定でしたが、耐震工事の時期を決めたのに伴って、工事までの間は1階も試験的にオープンすることにしました。運営を担うのは、花巻家守舎の役員であり、同社がリノベーションした物件でヨガスタジオとカフェを経営する高橋久美子さん。親子連れや年配の人たちがくつろげるカフェ、地元の食材や木のうつわを扱うショップコーナーとして、小友木材店の木材を生かしたあたたかみのある空間に生まれ変わりました。

開店を目前に控えた1月中旬以降は、地元出身のミュージシャン日食なつこによるライブやヒップホップイベント、寄席といったイベントも企画。ライブは200名以上が訪れ、立ち見も出る盛況ぶりでした。これにも小友さんならではの意図が。「食堂営業の空き時間にはイベント開催で稼いでいく必要がある。そのためにイベント用に食堂を開けた場合の光熱費などのコストをはじいておきたかったから」。従業員の勤務時間を考慮し、営業時間は延ばさず週1回の定休日は確保しながら、収益を上げる方策のひとつに位置付けています。

STEP 06 復活

ここからがスタート。
上町を花巻の産業が育つまちに

上)「大食堂の集客力で1階や上町商店街全体に人を呼びたい」と語る小友さん(撮影:手塚さや香)
下左)大食堂再開を待ち切れず開店前の早朝から行列をつくる人たち(撮影:藤野里美)
下右)商店街のいくつもの店に貼られた「祝開店」などのステッカー。地域の人たちもマルカン大食堂復活を喜んでいることが伝わってくる(撮影:手塚さや香)

2月20日。復活の日はあいにくの雨模様でしたが、早朝からマルカンビル前のアーケードには12時の開店を待ちかねて並ぶ人の姿もありました。定番のマルカンラーメン、ナポリカツ、ソフトクリーム……、変わらぬ味でお客さんを迎え、平日650組、土日祝日は850組で賑わっています。

しかし小友さんは「10年20年と続けていくためのスタート地点に立ったところ。感慨なんてありません」と淡々と話します。「2~5階はどうするのか」と聞かれることも多々あるそうですが、「2~5階を埋めるには設備改修などの投資がかかる。それよりは2階のテナント料より安い値段で上町の遊休物件を紹介するようにしたい」と話します。上町のアーケードには、大食堂復活前から「上町家守舎を応援しています」というステッカーが貼られた店舗が目立つようになりました。1階の棚貸しスペースで手応えを掴んだ経営者が上町商店街に出店する場合のサポートも考えています。

百貨店としての役割を終えいったんは閉店が決まった建物の運営引継ぎ、そして7ヶ月ほどでの再開……。9回裏からの華麗な逆転劇にも見えますが、小友さんは「再開に至るまでに『予想外』なことはなくて、お金の面もそれ以外の面も予想した範囲内で進みました」と振り返ります。地元金融機関などからの資金繰りに苦労したこともなかったと言います。すべては緻密なコストの割り出しや収支計算にもとづいて事業計画を固めたからこそのことでした。

全フロアで再開という一見華々しい理想よりも、「大食堂を10年先、20年先も続ける」というミッションからずれることなく食堂の早期再開第一で活動してきたからこそ、地元上町商店街からもマルカンファンからも上町家守舎が支持され、応援されるのでしょう。これからの目標は「上町を花巻の産業が育つまち」にすること。マルカンビル復活を起点にした上町家守舎の挑戦が、全国の商店街復権のヒントになる日も遠くないかもしれません。

手塚 さや香

Writer

手塚 さや香

釜石リージョナルコーディネーター、ライター。岩手県釜石市の復興をサポートするため、林業分野のコーディネーターとして奔走中。元全国紙記者の経験を生かしてローカルメディアや新聞にて岩手のことを執筆中。

大食堂と商業スペース

マルカンビル

2017.7.24更新

  • 住所

    岩手県花巻市上町6-2

  • OPEN

    ●マルカンビル大食堂
    11:00~18:30(ラストオーダー18:00)
    定休日:毎週水曜日(祝日と重なった場合は営業)、大晦日、元日

    ●マルカンビル1階
    9:00~18:30(物販スペースは10:30~18:30)
    定休日:食堂と同じ

  • 運営

    花巻家守舎、上町家守舎

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