ReReRe Renovation!

場の提供や創業支援も。
大家は、まちのプレーヤーの総合窓口

複合施設/Antique door 静岡県沼津市

Antique doorってどんなところ?

小久保 よしの

Writer小久保 よしの

静岡県沼津市。JR大岡駅から歩いて15分ほどのところに、『Antique door(アンティークドア)』がオープンしました。1階が創業を希望する人に最長2年で貸し出す店舗スペース、2階がオフィス&コワーキングスペースです。

 

この建物の大家であり、リノベーションを手掛けて、1階の店舗の創業支援や2階のコワーキングスペースの運営まで行っているのは、山田知弘さん。ファイナンシャルプランナーでもある山田さんは、「お店を始めたい」という人のサポートをし、まちを楽しくしていく仕掛人です。

 

ハウスメーカーからの転職を経て、現在のポジションをつくり上げたそう。山田さんのストーリーとそのノウハウに迫ります。

 

上)『Antique door』は、1階は貸し店舗、2階はオーナーのオフィスとコワーキングスペースとして構成されている。写真は2階の内観(写真提供:山田知弘)

下)店名通り、フランスのアンティークのドアが設置された『Antique door』。扉と看板が目印(撮影:小久保よしの)

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Antique doorができるまでのストーリー

STEP 01 こんな経緯から始まった

お金や物件のことも
幅広く相談される人になりたい

左)山田さんのオフィススペースへと続く床。砂利が敷かれ、モダンな雰囲気に
右)大家である山田さん(撮影:すべて小久保よしの)

山田さんは学生時代から、雑誌などの影響で住宅やインテリアに興味を持つようになりました。「経営学部にいたのですが、転部したいと考えたほど、設計や建築に関心を持ったんです。でも既に3年生だったため、文系からも入れる住宅系企業を目指し、ハウスメーカーに入社しました」。

配属されたのは、住宅展示場。主に新築の販売営業をする仕事でした。「営業職はとても楽しかったのですが、個人的に『このお客さまは新築以外のプランが合うかも』と思うことがあっても、会社としては新築を提案しなくてはならないことに疑問を持っていました」。

その後、夜遅く朝早い仕事で「我が子との時間が持てない働き方を変えたい」と思ったことがきっかけになり、5年間勤めたハウスメーカーを退社。税理士事務所に転職し、顧問税理士のもと、さまざまな業務を担当します。

その事務所では、住宅ローンから派生した相続相談も受けていました。ハウスメーカー時代には担当できなかったような業務に触れ、「お金の相談を中心にしながら、住宅に関することの相談にも乗ることができる……、そんな新しい仕事がしたい」と考えたのです。そして、ファイナンシャルプランナーの資格を取得し、2013年5月に独立します。

STEP 02 物件購入

物件を自ら購入し実践

独立後、親が不動産経営をしている人、つまり“大家さんの2世”からの相続相談が増えました。例えば「静岡でアパート経営をしていた親が亡くなったが、自分は関東に住んでいる。空室が多いが、建て替えて一新させるほど資金はない。入居率をどうやって改善したらいいか」といった相談です。

中古物件の活用の仕方を考えるなか、「話すなら、自らの経験則に基づいた話がしたい」というタイプの山田さんは、こう決断しました。「自分で物件を買って、入居率を100%にする体験をしてみよう!」。

昔から不動産物件を見るのが大好きだったという山田さんは、すぐに市内の大岡にあるアパートを購入することにしました。もちろん、入居率を上げなくてはいけない課題のある建物です。「部屋数で考えると3分の2が空室でした。つまり、ほとんど空室でしたね(笑)」。

物件を買う時に参考にするのは、なんと「近くにセブンイレブンがあるかどうか」なのだそう。「長年やっている企業で、マーケティングもしっかりされています。もちろんまったく同じことをやるのではなくて、少し変えたことをやるんです」。購入を決めた物件の目の前には、来客数も多いセブンイレブンがありました。

STEP 03 事業計画を立てる

お店を持ちたい人たちの「練習の場」に

左)自家焙煎の珈琲豆を販売する夢を叶えた店主の一場さん。現在1階に入居している
右)カフェスペースで珈琲を飲むこともできる。珈琲豆は490円〜/100g。地元の人が買いに来る(撮影:すべて小久保よしの)

購入するアパートの経営方法をどうしようかと考えていたところ、山田さんの奥様が開いているカフェに客として来ていた一場博貴さんは「脱サラして自家焙煎の珈琲豆のお店を開きたい。将来的には移動販売もしたい」と話していました。山田さんはその話を聞き、ひらめきます。「僕が購入する物件で、お店を持ちたい人たちに練習としてお店をやってもらおう! 1階は彼らのお店に、2階は自分の事務所にしよう」。

1階のテナント家賃は「売り上げのうち何%かを支払う」というルールで設定しました。「そうすれば、その時々で相手のためにも自分のためにもなりますからね」と山田さんは笑顔で話します。

自己資金は「ほぼゼロ」で物件を購入しました。資金は、事務所を購入する目的で金融機関から1500万円ほど借りたのです。不動産登記費用と抵当権設定費用などで約30万円、内装費用として1、2階を合わせて200〜300万円を使い、残りを物件購入費用に。

「金利は、金融機関とそれまでのお付き合いがあったので下げてもらえました。事業資金は比較的低金利で、かつ長期で借りられます。返済に無理がある場合は自己資金を入れたほうが良いけれど、計画さえしっかりしていればゼロでも始められる、という経験を積みたかったんです」。

唯一、自己資金を使ったのは、県内にあるフランスアンティーク店で購入した扉と家具。合わせて数十万円だったそう。これを設置し、店名は『Antique door』にしました。こうして2015年5月に購入した物件は、改装を経て11月に1階が、2016年4月に2階がオープンしました。

STEP 04 運営スタート

オープンと同時に入居率100%を達成

上)第5回『沼津でなにかやりたい人の会議』での自己紹介風景(写真提供:山田知弘)
下左)裏通りからの入店もできるようになっている(撮影:小久保よしの)
下右)「ぬまづ麦豚バーガー」650円。「沼津のお弁当をつくろう」というアイデアから開発が始まったのだそう。餌の7〜8割は麦を食べて育った豚の肉をパテに使用(撮影:小久保よしの)

現在、1階には珈琲豆店のほか、ハンバーガー屋「Hamburger. Lab」が入っています。「Hamburger. Lab」は、2016年春頃に2階で『沼津でなにかやりたい人の会議』というクローズドな懇親会を開催した時に参加した、市川明彦さんが開いています。その会議では、メニュー開発までみんなで行ったとか。

「入居者募集は特にしなかったのですが、周囲にいた方で埋まってしまいました。内諾をいただいて準備を進めましたので、オープンの時点で、当初掲げていた入居率100%を達成したことになります」。あくまで1階は「お店を持ちたい人が夢の実現を試す場」であり、長くても2年ほどで“卒業”するルールなのだそうです。

珈琲豆店の一場さんやハンバーガー屋の市川さんは、実務や経営についてリアルに学び、経験を積んでいます。山田さんは1階のテナントへの創業支援として、事業計画や経営、金融機関の融資のアドバイスのほか、官公庁への宣伝なども行っています。

2階は、山田さんのオフィススペースのほか、親しい3事業者が契約しているコワーキングスペースです。平日昼はコワーキングスペースで、土日と平日夜は貸し出していて、イベントなどが行われています。

1・2階の運営で気づいたことは、何だったのでしょうか。「空間づくりはやりすぎてはいけないということですね。大家、空間デザイナー、設計士たちの“作品”ではないんです。美しさよりも使い勝手の良さを追求する。使う人が使いやすいように、余白をつくる。120%や100%の空間をつくるのではなく、82%で良いと分かりました(笑)」。デザイナーなどが、完成度の高いものを目指そうとした際には、自分の意図を伝え、つくり込みすぎないようにしたと言います。

STEP 05 今後の展開

まちの「総合窓口」を目指して

上)家具作家志望の人など、若い人たちが集って準備中
下左)山田さんもDIYにハマっているそう
下右)まもなくオープンする『小商い研究室』の内観(写真提供:すべて山田知弘)

『沼津でなにかやりたい人の会議』はこの一年で5回ほど開催されました。話しやすく、決めたことを実行しやすいように、参加人数は5人以下と決めているそうです。

この会議を通じて新たな企画も生まれました。今、沼津駅の南側にある、アーケード名店街の4階建ての古いビルの3、4階を借りて『小商い研究室』というスペースをつくっています。貸しキッチン、DIYを実践できる作業部屋、イベントスペースなどを兼ねていて、イメージは“おとなの部室”。2017年6月にオープン予定です。

「『Antique door』は実際にお店を経験するテストテナントですが、『小商い研究室』はそのもっと手前にある動きの“やりたいことを実践して試す場、研究室”。失敗していい場所なんです」。

山田さんは、「総合窓口のような、何でも相談できる存在になりたい」と話します。「困った時に、まずどこに相談したら良いのかわからない時ってありますよね? そういう時に相談するような人です。色々な知識を持っていて、プロや得意な人にパスするようなポジションになりたいと思っています」。

自らの身で実験と実証を行い、何か始めたい人の声を聞き出す場をつくり、人々をつないで、適切なところに導くという方法で、まちのプレーヤーたちの「総合窓口」となることを目指す山田さん。そのステージのひとつである『Antique door』と実験の場である『小商い研究室』。この場所から、沼津市はもっと面白くなりそうです。

小久保 よしの

Writer

小久保 よしの

編集者・ライター。当サイトの他、雑誌『ソトコト』やサイト「ハフィントンポスト」などでの取材で全国を駆け回っている。地方のおもしろさに魅了される日々。

複合施設

Antique door

2017.9.2更新

  • 住所

    静岡県沼津市大岡1972-6

  • TEL

    070-5039-6918

  • URL

    www.antiquedoor.net

  • OPEN

    12:00〜17:30
    (「Hamburger. Lab」は20:00まで)
    定休日:不定休

  • 運営

    有限会社 日の出企画

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