ReReRe Renovation!

風景をつなげる発想で自らが興す。八百屋と公務員による家守団体

エリア再生/lanescape 静岡県沼津市

lanescapeってどんなところ?

小西 七重

Writer小西 七重

まちなかを狩野川が悠々と流れる沼津市中心部を活動拠点とする一般社団法人lanescape(レーンスケイプ/以下、lanescape)は、遊休化している不動産のオーナーと利用したい事業者とをつなぐ家守団体。自主事業として狩野川のほとりにある1棟貸しのゲストハウス「魚町 蔵ノ上」も手がけています。

 

lanescapeのメンバーは、2009年から沼津あげつち商店街で青果店「REFS」を営む代表理事・小松浩二さん、沼津市職員でもある理事・渡邊和之さん、公共R不動産でコーディネーターも務める理事・菊地マリエさん。事業者発掘・調整を担う中心的メンバーの小松さんと渡邊さんに、個々に生業を持ちながらのlanescape立ち上げ経緯から、家守として手がけてきたこと、その目的を伺いました。

 

下左) 商店街にある「REFS」前に置かれたテーブルで談笑するlanescape代表理事・小松浩二さん(右)と、理事・渡邊和之さん(左)

下右)小松さんが営む「REFS」は、伊豆・富士山麓野菜の有機野菜や、セレクトされた各地の加工品が並ぶ“野菜のセレクトショップ”(撮影:すべて小西七重)

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lanescapeができるまでのストーリー

STEP 01 こんな経緯から始まった

ひとりに抱えさせない、チームで抱える

上)最初は店の前にベンチを置いて「おいしいわさびを食べる会」など、小松さんが寄り合い的に始めた「沼津ナイトマーケット」。2011年から毎年さまざまな取り組みに挑戦し、商店街と河川敷を回遊する流れも生み出した(提供:lanescape)

lanescapeの設立は2017年。そこに至るまでに、小松さんと渡邊さんは、それぞれに別のアプローチでまちの課題に取り組んでいました。

小松さんは”食”を通して人のつながりに興味を持ち、10年前に生産者と消費者の架け橋となるべく青果店「REFS」を沼津市でオープン。店にやって来るお客さんに悩みや困りごとを聞いているうちに、できることを小さく始めていきます。

「まちに若者がいない」という声を聞けば、商店街の店の前にテーブルと椅子を置いて若者が集まるきっかけとなる小さなイベントを企画し、いつしか県道を1車線規制して開催する「沼津ナイトマーケット」に発展。地域の物語を発信する『沼津ジャーナル』運営のほか、沼津の食文化を発信する「This is NUMAZU 沼津自慢フェスタ」や「ライジングサンマフェスティバル」などなど、大規模なイベントに実行委員長や企画、コーディネートで関わるように。

「僕は”まちづくり”とか”地域活性化”って言葉があまり好きではなくて(笑)。大きく『このまちを変えてやろう』と構えていたわけではなく、なんとなく八百屋としてできること、目の前にある課題を解決しようと動いていただけなんです」(小松さん)

しかし、ボランティア(無報酬)でも頼まれると断れない性格が災いし、いつしか本業である青果店よりも、ボランティアに時間を取られることが多くなってしまいます。

一方、沼津市では2015年に遊休不動産の活用をきっかけに、まちの課題解決を行う「沼津市リノベーションまちづくり」事業が立ち上がり、翌年から2018年までの間に4回のリノベーションスクールが行われました。このリノベーションまちづくりに渡邊さんは市職員として参画。

「行政としても何かあったら小松さん頼みというか、それを優しいから受けちゃって、どんどん疲弊していくのがわかっていました。プレーヤーを引っ張る、大切な存在を疲弊させてはいけないと考えていたんです」(渡邊さん)

そんなふたりがlanescapeを設立するきっかけとなったのは、後に宿泊施設となる「魚町 蔵ノ上」でした。2016年2月に市が主催したまちのお宝物件探しワークショップ「まちのトレジャーハンティング@ぬまづ」で参加者が見つけたのが狩野川沿いの一軒家。渡邊さんは早速オーナーのもとへ足を運びました。

「オーナーさんに話を伺うと、『何かやるなら使ってもいいよ』と言ってもらえたので、その場で『僕に貸してください』と個人的に物件を借りました」(渡邊さん)

“ここで何かやれないか”という想いと、まちで行われる様々なイベントに参加する人は増えているものの、プレーヤーを引っ張っていける人が出てこない現状のなかで、渡邊さんは小松さんに集中する負担を軽減するため、「組織をつくろう」と声をかけます。

「僕は家守会社をやりたかったわけではないんですけど、なぜ渡邊さんの誘いに乗ったかというと、覚悟を持って行動していたから。仕事だから、沼津市の取り組みだからではなく、渡邊さん自身が”とりあえず自分が借りておこう”と実際に動いていた。だったら、自分もやるべきだなと思いました。僕自身も、あるときからイベントのお手伝いよりも日常のにぎわいに興味を持っていたことと、ひとりで抱えずに共有できることにも魅力を感じました」(小松さん)

lanescapeのコンセプトは「今ある風景とこれからの風景をつなげる」こと。ユニークな事業がまちをつなぐ”道”となり、小さなエリアからまち全体に広げるビジョンを掲げています。初期費用の60万円をメンバーで出資し、一般社団法人として2017年11月に設立しました。

STEP 02 自主事業の立ち上げ

改修費は70万円。コストを抑え稼働率50〜60%をキープ

上)「魚町 蔵ノ上」は、沼津市の中心を流れる狩野川沿いに建つ
下左)周囲がマンションやオフィスビルに建て替えられるなか、石垣と蔵の壁がかつての面影を残す
下右)内装には大幅な改修を加えず、コストを抑え、家族やグループでゆっくりくつろげる空間に(提供:すべてlanescape)

lanescapeとして最初に手がけた事業は、自主事業である宿泊施設「魚町 蔵ノ上」。もともとは、魚市場や問屋街があったこのエリアの面影を残す、蔵の上に建てられた民家でした。

「ビジネスホテルはすごくあるのに、家族で泊まれる場所がないんですよね。家族がまわりの音を気にせず泊まれたり、学生がグループで泊まれたりする場所が欲しいなと。ゲストハウスにすることが決まったあとで、小松さんは”実は昔、ゲストハウスをやりたかった”と言ってましたね(笑)」(渡邊さん)

「そうなんですよ。以前、金沢でいい物件と出会ってゲストハウスをやろうかと迷っているところにリーマンショックがあって、先に八百屋をやろうと沼津ではじめたので、まさかここで宿をやれるとは……」(小松さん)

準備を進める中で、渡邊さん個人名義で借りていた物件の契約もlanescapeに切り替え、改修のため90万円を借り入れ。改修費は、給湯器の修理やエアコンの設置、片付け、壁の塗装、布団など備品の購入で90万円。間取りや内装は壁の色を塗ったくらいで、ほぼ手を入れていないと言います。

簡易宿所営業の許可を取得し、予約はすべてwebサイト「Airbnb(エアビーアンドビー)」を介して受付。かかる人件費は清掃スタッフのみで、常駐スタッフを配置せずとも、今のところ大きなトラブルはないそう。

「トラブルがあったときの手間をすごく考えていたんですけど、『Airbnb』経由のお客さんとの間に全然トラブルがなかったんですよね」(小松さん)

「『Airbnb』は、宿泊施設と同じように利用者も評価される対等なシステムなので、リスクが回避できるのだと思います」(渡邊さん)

宿泊費は1棟利用で平日8000円、週末1万円(いずれも2名を超えると1名増毎に2,500円加算)に加え、清掃料金が2500円。2018年8月のオープン以降、稼働率は50〜60%をキープし、家賃や光熱費などの固定経費7〜8万円を差し引いても月20〜30万円の売上利益があり、借り入れた100万円は3年で返済の計画です。

「オープンして驚いたのは、利用客の半分が外国人観光客だったこと。富士山や伊豆に行くのにも、ここに泊まって沼津を経由していく人が多かったんです」(渡邊さん)

「沼津は有名なブルワリー『ベアード ビール』の発祥地でもあるんですけど、そのほかにも3軒ブルワリーがありますし、まだ拾いきれていない可能性がここにあるのかなと思っています」(小松さん)

STEP 03 家守としての事業立ち上げ

物件から公共空間まで!? まちの風景を変える家守

上)狩野川河川敷の日常の風景となりつつある、週1日キッチンカーがやってくる「On the terrace」
下左)商店街にある家電量販店の2階にオープンしたダンススタジオ「El Pasito」
下右)グラフィックデザイナーが運営する「NUMAZU DESIGN CENTER」は、誰でも使えるデザイン図書館や、まちのデザイン窓口など、地域に開かれたシェアオフィス(提供:すべてlanescape)

これまでlanescapeが架け橋となった家守としての事業は4件。2018年に、沼津新仲見世商店街にダンススクール「EL PASITO(エル・パシート)」と、デザイナーのためのシェアオフィス「NUMAZU DESIGN CENTER」が誕生。2019年3月には「魚町 蔵ノ上」地下にある蔵が、珈琲豆専門店「FERRET COFFEE」の焙煎所として使われています。

最初に手がけたのはダンススクール「EL PASITO」。ここはもともと家電販売店の倉庫になっていたビルの2階で、lanescapeが220万円を借り入れて施工し、事業者からの家賃で借り入れ分を回収しています。

「何かにチャレンジするときに、借金をしたがらない人って多いと思うんですけど、僕は借金をするほうがリスクが少ないと思っていて。キャッシュを使うと、うまくいかなくて辞めて、次のことをやろうにも手元にお金がないですよね。借り入れを起こしたら、いざというときに手元のキャッシュを使って次にいける。そういう話をしても躊躇する人もいるので『では、キャッシュは持っていてください』と、ここは僕らが借り入れしました。事業者はリスクがないし、契約の条件を決めちゃえば僕らのリスクも少なくできる。だから、借り入れ分の返済期間を3年にして、事業者との契約期間も同じ3年にしています。僕らとしては、長く続けてもらいたいですし」(渡邊さん)

「どの物件も、渡邊さんが公務員だから安心して話を聞いてもらえるというのは大きいですけど、沼津のまちが疲弊していく中で、少しずつ動いている様子を知ってもらうと『うちも何かに使えるなら』と協力的なオーナーさんが多いですね」(小松さん)

なかなか自力では物件が決まらなかった事業者もlanescapeが間に入ることで物件が決まり、活動がスタートしたと言います。これも、公務員である渡邊さんと、これまで数々のまちのイベントに時間と労力を費やしてきた小松さんが信頼されているからこそ。

さらにふたりは、狩野川河川敷でも新しい取り組みを手がけました。狩野川右岸は整備された階段堤「かのがわ風のテラス」があり、川の向こうに沼津アルプスを望む素晴らしいロケーション。ここで毎週水曜日、ランチタイムになると週替りでコーヒーや焼き菓子、弁当を販売するキッチンカーがやってくる「On the terrace」が開催されています。実はこのキッチンカーの営業場所は、lanescapeが沼津上土町周辺狩野川河川空間利用調整協議会から利用事業者に決定され、占用料を支払っているのです。

「キッチンカーの事業者から売上の一部をいただいているので、ここも結果的にはサブリースと言えます。公共空間のサブリースをしているのは全国的にも珍しいかもしれません」(渡邊さん)

このほかにも、行き交う人がゆっくり過ごせるように、許可を得てテーブルや椅子を設置。同時期に、行政がもともと置かれていたコンクリートの花壇も部分的に撤去し、川を眺められるキューブ上のウッドデッキを設置し、芝生も敷かれました。

「それまで河川敷に花壇が並んでいて、ゆっくり腰掛けて川を眺めることができなかったんです。今までは芝生を敷くのはDIY的にできたんですけど、花壇までは撤去できなかった。5年かかりましたけど、lanescapeをつくったからそれが叶い、のんびり過ごせる場所をつくれました」(小松さん)

「小松さんから沼津上土町周辺狩野川河川空間利用調整協議会に提案があって、行政が花壇への出入り口をつくるという話になりました。担当は商工振興課だったんですけど、利用事業者のlanescapeの意見を取り入れ、整備してくれました」(渡邊さん)

STEP 04 なかなか動かない物件

2年越しで動き始めた「hamanotei」 川に開いた場をつくる

上)2018年、沼津市で開催されたリノベーションスクールで設置された流木テラスとオブジェが目をひく「hamanotei」。今後はクラフトジンの醸造所&スタンドとしてオープン予定(提供:lanescape)

周囲にビジネス街があることもあり、椅子に座ってランチを楽しむ人や、夕暮れにカップルがまったり過ごす姿も見られるようになってきた狩野川。ふと見ると、ビルの谷間に流木でつくられたオブジェがひときわ目をひく小さな物件が……。ここはリノベーションスクールを機にオーナーが「沼津のシンボリックな場所として使ってほしい」と提供してくれた古民家。2017年に開催され3回目のリノベーションスクールで対象案件になり、2018年に開催された4回目のリノベーションスクールでセルフリノベーションユニットの対象物件になりました。

「事業者が決まっておらず、使い方が決まっていない建物の中をリノベーションしても意味がありません。リノベーションスクール参加者とデッドストック工務店により、川に面した空間が広かったので、川辺を歩く人の目にとまるようなものをつくろうと、完成したのが流木のテラスでした」(渡邊さん)

まわりの建物がほとんど川に背を向けているため、川に開かれるように設置されたウッドデッキは、ビルの谷間でポンと浮かび上がるように目立ちます。そして、この様子を見て「ここでクラフトジンの醸造所をやりたい!」と新たな事業者からの申し出も。

この場所を、店舗空間と公共空間である河川敷の境界線を緩やかにするきっかけとして重要視していたlanescapeにとって、事業者の決定は待ちに待ったことでした。

「事業者がようやく決まったのですが、ここでまだ問題があったんです。クラフトジンをここで醸造するには酒類製造許可が必要なんですけど、手続きに時間がかかるんですよね。時間がかかるのは承知していたんですが、思うように進まず……」(渡邊さん)

「テラスは作ったけれど、何も目に見える動きを出せないので、前を歩く人たちが”あれは何?”と興味を持っても、そのうち忘れられてしまう。だったら、ここが動いていることを自分たちで見せて、日常の風景をつくろうと、2019年7月5日〜10月15日の100日間限定で食堂&グリル『hamanotei』をやったんです」(小松さん)

それまでオーナーの好意で家賃は発生していませんでしたが、「飲食店での収益がある以上、賃料は払うべき」とlanesapeが物件の契約を結び、賃料を支払うことに。平日の昼間は沼津近隣の飲食店にテナントとして入ってもらい、売上の20%を出店料として徴収。金曜のディナータイムと週末をlanescapeが自主事業としてスタッフを雇用し、手がけていました。

しかし、7月に雨が多く天候に恵まれなかったり、川沿いを歩く人をうまく引き込めなかったりと、思うように客足は伸びず、100日間で100万円もの赤字に……。

「設備費を除くと、赤字のほとんどは人件費です。『魚町 蔵ノ上』で積み立ててきた収益も、赤字の補填にまわりました。やってみなければ分からないことがたくさんあり、とても良い経験になりました」(渡邊さん)

赤字は痛手ですが、「hamanotei」が終了して約1ヶ月半後には、クラフトジン蒸留所の施工が始まります。日々進む工事の様子を横目に、「次は何ができるんだろう?」と密かにワクワクしながらオープンを待っている人も少なくないかもしれません。

STEP 05 今後の課題と展望

きちんと収益に繋げながらコンテンツ力を高めていく

上)行政に働きかけて整備・設置したキューブ型のウッドデッキや、その横の芝生に置かれたテーブルと椅子でのんびりとくつろぐ人や、川を眺めながら食事を楽しむ人……etc。lanescapeは、その機能を活かして川辺の風景を少しずつ変化させてきた(提供:lanescape)

目の前に課題を見つけると「やらなきゃ」と動いてしまう小松さんと、沼津市職員であり、行政の立場で物事を見られる渡邊さん。公民連携の事例は数あれど、生業を超え、プライベートな時間でがっぷり四つに組むのはレアケース。

「飲み会とかでみんなと話すと、”自然があっていいまちだよね”って会話で終わるんです。そして、それを活かしきれていなくて、多くの人は”沼津って何もないよね”とも言う。なんか、もったいないですよね。僕ができることを考え、まちの人の信頼や声に応えようとしたとき、行政のルールに従うことから考えるのではなく、違う方法からできることを探っていけるのも、lanescapeの機能があるからかなとも思います」(小松さん)

「行政のことは、なかなか外からだとよくわからない。その点、僕は行政の扱い方を知っているんですよね。そこは大きいと思います。かといって、僕は家守を専業でやるつもりはありません。公務員だからできることがあるし、同時にlanescapeを通して公務員ではやれない新しい可能性も求められるので」(渡邊さん)

設立から2年が経過し、いくつもの案件を手がけてきたlanescapeですが、まだ今のところメンバーは無報酬なのだそう。今後の課題は、自分たちの経験や労力をきちんと収益に繋げていくことですが、lanescapeとしての展望を尋ねると、ふたりともやりたいことが次々と湧き出てきます。

「まちなかに面白いことがどんどん入っていけば、もっと楽しいことになると思っています。そこに観光客も来て、有機的にいろんなものが繋がればいいなと思うのですが、まだ個々のコンテンツとしては弱い。何かをやりたい人のお手伝いをしつつ、コンテンツ力を高めていければと。沼津にはまだまだ、活かしきれていない公園もある。まちと港とその公園が繋がると、全然沼津の印象が変わる気がするんです。それから体験ですね。狩野川の少し上流に行くと、川下りができるので、そういった体験もやれるようにしなきゃとも思います。とにかくすごく資源があるところなので」(小松さん)

「この狩野川のほとりで楽しそうにキャンプしている風景も見たい。そうやって自分が見たい風景をつくっていけたらと思います」(渡邊さん)

「こうだったらいいのに」を、日常の風景に変えてきたlanescape。今後は、物件を探す事業者のみならず、公共空間で「こんなことがしたい」とまちの人から立ち上がってくる”これからの風景”を誘発し、アシストする存在になるかもしれません。

小西 七重

Writer

小西 七重

フリーの編集者・ライター。著書に『箱覧会』(スモール出版)、共著に『市めくり』のほか『あたらしい食のシゴト』(京阪神エルマガジン社)がある。

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2019.12.24更新

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