ReReRe Renovation!

点から線へ、線から輪へ。
池袋経済圏のつくり方

エリア再生/IKEBUKURO LIVING LOOP 東京都豊島区

IKEBUKURO LIVING LOOPってどんなところ?

rerererenovation!編集部

Writerrerererenovation!編集部

官民連携でまちの魅力向上や賑わいの創出を目指す「グリーン大通り等における賑わい創出プロジェクト」(2017年〜)を進めてきた豊島区。そのプロジェクトのもと、公共空間の活用を通し、エリアの魅力を高める企画を実施してきたのが、株式会社nest(以下、nest)です。

 

「池袋東口のグリーン大通り・南池袋公園周辺を“暮らしたくなるまち”にするために」という大きなビジョンのもと、彼らが最初に起こしたのは、南池袋公園で開催する月に一度の「nest marche」(2017年5月〜)。そこに集まった賑わいを、グリーン大通り一帯、その先のエリアである雑司が谷までのお店や路地を回遊して楽しむ「IKEBUKURO LIVING LOOP」へと広げ、日常の変化を育んできました。

 

賑わいの起爆点を打ち込み、まちへと溢れさせる。点から引いた線を伸ばしていくことで回遊型の賑わいを日常に埋め込み、着実にまちの未来をつくる、nestの手法の舞台裏を訪ねます。

 

上)2017年からスタートし、4年目に突入したIKEBUKURO LIVING LOOP
下)nest設立メンバーの4人。左から宮田サラさん、馬場正尊さん、青木純さん、飯石藍さん(提供:すべてnest)

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IKEBUKURO LIVING LOOPができるまでのストーリー

STEP 01 こんな経緯から始まった

南池袋公園とグリーン大通り

上)南池袋公園にはやわらかな芝生が広がり、人々がくつろぐ様子が、今や池袋の代表的な風景のひとつに。飲食施設の建設により日常的に人が訪れ、マルシェとも連携する動きが生まれた(提供:nest)

池袋と言えば、あらゆる商圏が混ざり合う「商いのまち」。そこに、ローカルの暮らしに根付いた新たな賑わいのきっかけをつくったのが、2016年4月にリニューアルオープンした南池袋公園です(参照:『近づけない場所から、地域の誇りへ。南池袋公園のつくり方』)。

芝生でくつろぐ人々の姿がすっかり“池袋の新しい姿”となる一方、エリアには、もうひとつの課題がありました。それは、南池袋公園のそばにあるグリーン大通りの閑散とした姿のこと。

グリーン大通りは、国家戦略特区に指定され、従来は実施することができなかったオープンカフェなどによる道路空間の活用を許されているにも関わらず、そのチャンスを活かしきれていなかったのです(参照:『「日常を、劇場へ」。通りと公園から池袋の居心地を変える挑戦』)。

そこで、豊島区は、官民連携でまちの魅力向上や賑わいの創出を目指す『グリーン大通り等における賑わい創出プロジェクト』の実施者を募集。そこで選ばれたのが、nestです(2017年3月)。

nestを構成するのは、株式会社まめくらし代表の青木純さん、株式会社オープン・エー/公共R不動産代表の馬場正尊さん、青木さんとともに「としま会議」やリノベーションスクールのほか、南池袋公園でのイベント企画や運営を担っていた飯石藍さんと宮田サラさん。「グリーン大通りエリアマネジメント協議会」のアドバイザーとして、賑わいづくりの実行部隊となると、彼らは、彼らならではの手法でまちに仕掛けをつくり始めました。

STEP 02 点から線へ

充満した賑わいが堰を切る

上)ストリートファニチャーが設置され、居心地のいいストリートが実現したIKEBUKURO LIVING LOOP
左下)2017年のグリーン大通り。広い歩道でありながら、人の流れがほとんどない状態だった
右下)IKEBUKURO LIVING LOOP vol. 3(2019年10月)より。3回の開催を経て、来場者や出店者、運営メンバー、豊島区役所それぞれが、まちの変化を感じている(提供:すべてnest)

飯石さん曰く、当時のグリーン大通りは、「南池袋公園からグリーン大通りに出ると、通勤・通学時以外はほとんど人が歩いていない」ほど、閑散とした印象だったそう。その状況を前に、最初の起爆点をつくろうと彼女たちが仕掛けたのが、南池袋公園とグリーン大通りを一体で活用した、アウトドアシネマやウエディング、マルシェなどのイベントです。特にエリアの温度を少しずつ上げていくべく、「nest marche」というマルシェを毎月開催していくことを考え、企画を立ち上げました。

しかし、当初は出店者からのシビアでリアルな温度も感じたそう。実は、いざ出店者の募集をかけたところ、グリーン大通り側への出店には、誰も手を挙げなかったのです。

「『こんなところに出店してお客さんが来るの?』という反応ですよね。期待値ゼロからのスタートでした(笑)」と、飯石さん。そこでまずは、大通りの期待値を高めることが重要だと捉え、ストリートに滞在したくなるようにファニチャーやハンモックを設置したり、ワークショップを開催する出店者をグリーン大通りに配置して滞在時間が長くなるように調整したりと、毎月のマルシェで空間づくりの工夫を重ねていきます。そんなふうに、小さな仕掛けと人の動きを反応させながら実践を重ねていくことで、少しずつ出店者やお客さんからのグリーン大通りに対する反応も変化してきました。

そして、半年後の2017年11月の第3週の週末には、マルシェの範囲を大きく拡大。グリーン大通り一帯を「市民のリビング」に見立て、さらにその先のエリアである雑司が谷までのお店や路地をぐるぐる回遊しながら楽しんでもらうという、「IKEBUKURO LIVING LOOP」を展開したのです。

出店数94店のうち76店は、グリーン大通りに出店。2日間にて、お買い物をした人の累計は約3,730人。多くの人たちが、 “人通りの少なかった大通り”を歩き、買い物を楽しみ、滞在し、それぞれの時間を過ごした2日間。描いていた“LOOP”が生まれた瞬間です。

「毎月のマルシェを重ねるうちに、来場のみなさんが『来月は何があるんだろう?』と関心を持ってくれるようになりました。これまでは、グリーン大通りが一体どんな場所なのかすら記憶していなかったような人たちが、そんなふうに捉えてくれるようになったんです。そうなるために一番大事だったのは、『毎月この日にここに行けば賑わっている』という日常に根ざした状態を絶やさないことでした」(飯石さん)

「マルシェへの出店は審査制で、区内で活動されている方を優先しているのですが、現在では1/3が区内の方で、それ以外が区外の方。池袋近隣や、池袋駅の沿線上に暮らす生産者さんやクリエイターを含む方々です。『池袋のまちをおもしろくしたい』という考えに共感する出店者が集まっています」(宮田さん)

ちなみに、出店料は売り上げの10%、または3,000円。テントやベンチ、テーブルは別途レンタル費を支払う形式に設定。出店者の売り上げの平均値も開催を重ねるごとに上昇し、nestの運営としてもすべての回で黒字を達成(運営費用には、豊島区からの予算利用も含む)。

STEP 03 実証から変化を促す

継続から生まれたまちの変化

左)ナイトマルシェでは、温かみのある照明に彩られ、昼と違った雰囲気に
右)毎月のnest marcheで実験を重ねた結果、許可されたグリーン大通りへのキッチンカーの出店(提供:すべてnest)

3年間で、nest marcheを23回(雨天中止を除いた回数)、IKEBUKURO LIVING LOOPを3回開催。開催を重ねる度に、運営側だけではなく、出店者も一緒にストリートでお客さんを迎えるという意識が生まれ、その景色は、池袋に新しい風景として定着したと言います。

また、イベント時のみ特別に許可されていた歩道へのキッチンカーの乗り入れも、通常時における許可が得られるようになったり、歩道を使用したパフォーマンスに許可が得られるようになったりと、実践と評価に基づいたルールの緩和も実現。

「居心地の良い空間を日常化できたらと、開催のなかで実験もしてみたんです。夜、街灯を消して自分たちで暖色のライトを設置してみたり、歩道にアウトドアファーニチャーを置いてみたり。それをまちの人がどんな反応で楽しんでくれるかを、行政の関係者を始めとする方々と実際に見て、次の動きを考えていきました」(宮田さん)

さらに、まちの人たちにも動きが。南池袋公園の前に不動産を持つオーナーがIKEBUKURO LIVING LOOPを見て感動し、「自分もまちにコミットしたい!」と、自ら物件をリノベーション。ビルの1階にサードウェーブ系のコーヒーショップを誘致したのです。

「エリアの価値をあげて、居心地の良い日常をつくり出すためには、ビルの1階部分がまちに開いていることが重要だと思いますし、それにはオーナーの意識の変化や行動も不可欠です。チェーン店ではなく、ローカルに根差そうという理念を持った企業や個人店を誘致すれば、まちに還元する動きが生まれて、また次の変化へと繋がる。3年間のプロジェクトを経て、手応えを感じました」(飯石さん)

STEP 04 コンテンツ転換に着手

荒波には”乗る”

左)オンラインマルシェサイト『IKEBUKURO LIVING LOOP Online』(Webデザイン:小栗直人)
右)オンラインイベントでは、池袋駅沿線で活動する生産者や事業者がYouTubeライブに出演。「池袋のまちの未来を一緒に考える場になった」と飯石さん(提供:すべてnest)

そんな時、この変化の流れに、そして、日本じゅう世界じゅうのあらゆる事業に試練を招いたのが、新型コロナウイルス感染症拡大による混乱です。

2020年3月、nestにとっては一旦豊島区との契約が終了し、再プロポーザルが始まるというタイミング。日本各地で、さまざまなイベントの開催が自粛に追い込まれ、3月のnest marcheも中止になってしまいました。再開の見通しも立たない状態に。

しかし、ある出店者からの声をきっかけに、nestはすばやく新たな動きに着手することに。

「常連の出店者さんから『オンラインでもマルシェのようなものをつくれないか?』と相談が来たんです。出店者の皆さんには、オンラインストアでの販売と並行してリアルな場を行脚して生計を立てている方たちもいる。私たちが動かなければと思いました」(飯石さん)

彼女たちは、それから2〜3週間という驚くべき短期間でオンラインマルシェサイト「IKEBUKURO LIVING LOOP Online」をオープン。マルシェを巡るように横にスクロールして一つひとつの屋台を覗きながら、アイコンや吹き出しコメントをもとに気になるお店をタップすると、それぞれのつくり手の紹介とともに、ECサイトやSNSで商品を購入できる仕組みです。

「通常のオンラインショップとは見え方が違っているので、サイトの仕様としては、不便なつくりかもしれません。でも、歩きながら出店を覗き、商品を選ぶというマルシェでのリアルな行動をイメージして、あえてそうしたんです。マルシェの醍醐味は、フラフラ回ってお気に入りのものや出店者に出会うこと。その偶然を楽しむ感覚を追体験できるようにしたかったんです」(飯石さん)

ローンチ時には、これまでのマルシェへの出店者を中心に20店舗が参加。現在は47店舗と、日に日にその数は増えています。あくまでも“応援”として、掲載料は設定せず、その代わり、月1でオンラインイベントを開催し、そこでの参加店から協賛費を回収しています。

オンラインイベントでは、サイト上に記されたタイムテーブルから各出店者のインスタグラム等に直接アクセスできるようになっていて、つくり手に商品のこだわりや想いを聞いて購入することができます。つくり手に加えて、池袋周辺で活動するキーパーソンが出演してトークセッションをするYouTubeライブも実施。初回は累計1,350人が視聴したそう。

「リアルな出店だと、店主とお客さんの話す時間が限られてしまうところ、思いを伝えられる時間がしっかり取れたのはオンラインならではだと思います。それぞれのお店のファンが他のお店の商品を購入していたり、配信の翌日には視聴者がお店を訪ねたりと、確かな循環がありました」(飯石さん)

サイト制作費やオンラインイベントの運営費は、クラウドファンディングの支援金474,888円のなかから捻出。逆境のなかで生み出されたオンラインマルシェですが、新たな可能性を掘り起こしてくれました。

WithコロナフェーズでのIKEBUKURO LIVING LOOP再開は、(もともと屋外イベントでは三密のリスクは軽減されるものの)出店数を減らし、散らしての配置に。IKEBUKURO LIVING LOOPのInstagramからのライブ配信も行い、オンラインとオフラインで楽しめる構成に。逆境からのチャレンジを経て、奇しくもバージョンアップしたハイブリッド仕様となったのです。

結果、10月と11月に合計7日間開催したIKEBUKURO LIVING LOOPは、1日の平均客数は昨年より減ったものの、まちの人たちの割合が増え、1店舗ごとの平均売上は昨年より14,000円ほどアップ。居心地の良いパブリックを育むだけではなく、稼げる場所にもなってきているようです。

「2020年は予期せぬ状況に直面しましたが、私たちがやるべきことは変わらず、池袋に新しい日常をつくるために、これからも行動するだけ。『これまで自分たちがやってきたことは間違いじゃなかったな』と、ある種の答え合わせになった気がします」(宮田さん)

「nest marcheも、IKEBUKURO LIVING LOOPも、単なるイベントではなく、自分たちの手で新しい日常をつくるための社会実験。そのためには、開催を継続することが大切。だからこそ、『池袋のまちをもっと面白くしたい』と共感してくれる人たちと、もっと出会いたいと思います」(飯石さん)

STEP 05 展望

“池袋経済圏”を描いて

上)豊島区では「国際アート・カルチャー都市」実現に向けた池袋周辺の4つの公園整備が進められ、2020年春にすべての公園がオープン(豊島区役所ホームページより抜粋)
下左)2020年10月、11月の計7日間にて開催されたIKEBUKURO LIVING LOOP vol.4。ビアフェスやコーヒーフェスも登場(提供:nest)
下右)IKEBUKURO LIVING LOOP当日、来場者はQRコードからMAPを受け取り、エリアを回遊する(撮影:rerererenovation!編集部)

立ち上げから、1社で走り続けてきた「グリーン大通り等における賑わい創出プロジェクト」。しかし、2020年からは株式会社良品計画、株式会社グリップセカンド、株式会社サンシャインシティを含む4社が豊島区の事業に採択され、チームとして新たな光景を描いています。

「4社で一緒にやろうと思ったのは、行政に『私たちは本気で新しい日常をつくりたい』という、意思表示という意味合いが強いですね。どうやって池袋のまちを動かしていくのかと考えた時、ひとつの経済圏で衣食住が循環することをやりたいなと。池袋は近隣に住んでいる人も多いし、西武線や東武線など沿線のコミュニティも充実していて、生産地も近い。例えば、池袋沿線の農地で取れた野菜を池袋で販売して食べられるとか、池袋がハブになって練馬や板橋、埼玉方面の生産者と繋がるとか。まさに“池袋経済圏”と呼べるもの。その考え方に共感してた仲間と構想を膨らませていきました」(飯石さん)

池袋は巨大な商業のまちに見えますが、小さな商いとともに生きる人たちがたくさんいるまちでもある。自らの商いの拠点をそれぞれ池袋に置いてきた4社だからこそ、そこから生まれる暮らしの可能性に共感してのスクラムとなりました。

そして今、池袋で起こっているのは、さらなるうねり。

豊島区は、国土交通省の「まちなかウォーカブル推進プログラム」での推進都市、そして、内閣府より「SDGs未来都市」にも選定されています。そのなかで、特に先導的な取り組み「自治体SDGsモデル事業」とされる動きのひとつが、「4つの公園を核としたまちづくり」です。

南池袋公園と各公園との導線も描き、さらに大きなスケールで回遊を実現するという、ダイナミックな展開に注目が集まっています。

気後れしそうなゼロからのスタート、しばしば現れるルールや規制によるハードル、そして突然やってくる荒波。そのすべてに、思考を止めることなく、しなやかな実践を起こし、風景を現すことで人々の心を動かしてきた飯石さんと宮田さん。求められる声に全力で応え、何があっても継続すること。nestが描く新しい「日常」は、今、池袋にあります。

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エリア再生

IKEBUKURO LIVING LOOP

2020.12.2更新

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