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家も仕事も自分でつくる。
暮らしを動かす家守舎とは

家守舎/都電家守舎 東京都豊島区

都電家守舎ってどんなところ?

馬場 未織

Writer馬場 未織

「欲しいけれど今はない、そんな暮らし方をちゃんと手に入れる」

 

設立3年目のいま、都電家守舎では2つの事業が動き出しています。

 

ひとつは、「こどもがいても安心して働きたい」というママたちの願いをもとにつくられた、荒川線向原駅近くの地域密着型飲食店『都電テーブル』。もうひとつは、「賃貸でも自分の好きな空間に住みたい」という希望を叶えるためにつくられた、有楽町線要町駅近くの『要町ホワイトマンション』のカスタマイズ賃貸。

どちらも、きっと無理だろうなと諦めかけていた”本当に欲しい暮らし”を手に入れるためにつくられたしくみです。

まちは、暮らしたい人がいることで成り立つもの。だからこそ「どうすれば暮らしたいまちになるのか」という課題に対して、具体的に答えを出していく。それが、都電家守舎のまちづくりです。

家守4人

都電家守舎ができるまでのストーリー

STEP 01 消滅可能性都市を、消滅させない事業を考える

都電沿線で暮らす4人が、満を持して立ち上がった

その日の素材を丁寧に調理する「都電テーブル」の風景(撮影:都電家守舎)。下の都電家守舎のロゴは、このまちを走る都電の車輪をイメージしたもの。記念すべき都電家守舎の初事業、賃貸部屋のカスタマイズした「要町ホワイトマンション」は一時代前の風情が街並みになじむ(撮影:丹生隆)

豊島区内をぐいんと縦断する、都電荒川線。手触りの風情が残る沿線のまちを、楽しく暮らせるまちにしようと住人たちが、まちづくり会社『都電家守舎』を立ち上げました。

発起人は、都電沿線に拠点を持った業種の異なる4人です。雑司ヶ谷で活動する”建築”の嶋田洋平、向原にいる”不動産”の青木純、早稲田で”産直販売”店を営む安井浩和、目白で”飲食”店を経営する馬場。この4人が10万円ずつ出し合って2013年に立ち上げたこの会社は、2014年に豊島区が‘消滅可能性都市’として名指しされたことをきっかけに、「消滅しないためにも、今ここに暮らす僕ら自身がずっと住み続けたいと思えるまちをつくろう」と2つの事業をおこしました。

ひとつ目は、飲食店の『都電テーブル』。赤ちゃんからお年寄りまでが安心して食事できる場所としてオープンしました。お店のこだわりは3つ。生産者から直接仕入れた食材を提供すること、小さい子を持つ家族もゆっくり食事ができること、まちの住人(特に子育て中のママ)のための職住近接の職場であることです。最後はとっても重要です。お母さんたちが安心して働けて、且つ「素敵な場所だね!」と思われるような誇りを持てる職場づくりこそが、住みたいまちづくりへの第一歩となるからです。

もうひとつの事業は、自由にカスタマイズができる賃貸住宅『要町ホワイトマンション』の提供です。素敵な住人の集まるまちづくりへとつながるこの事業については、以下で詳しくご紹介します。

STEP 02 マンションの価値を高め、まちの価値も高めていく

オーナーの心を動かした一言

「6階からの眺望も風通しのよさも、日の入りの風景も全部いい」と、この部屋に一目惚れした丹生さん。リノベーション費用は375万円かかる予定だったが、オーナーと家守舎が分担して出資。丹生さんからの家賃2年間分でまかなう計画を立てた。当初あった間仕切り壁はきれいに取り払い、光に満たされた大きなワンルームが今回のDIYの舞台となる。(撮影:丹生隆)

要町ホワイトマンションは、家守舎の一員の嶋田さんが別の賃貸物件で既に手掛けていた『目白ホワイトマンション』の発展形です。「資金力はないがセンスとパワーのある若い人が、自由にリノベーションして住める部屋を借りられるよう、初期コストは入居者・オーナー・家守舎で分担し、長期スパンで入居者分は家賃の中で回収する」というマスターリース方式です。まずは一部屋、要町ホワイトマンションの6階にある空き室をターゲットとして設定しました。

実はこの部屋、原状回復のためのリフォームが既に終わった物件でした。オーナーの浅原さんは当初、”カスタマイズ賃貸”でなくても入居希望者が現れるという認識でしたが、都電家守舎の青木さんはオーナーへの説得を続けました。「今後ずっと空き室をつくらないためには、その部屋の価値を上げることが重要です。手間をかけてセンスよくカスタマイズした部屋には、ここになら入居したい、と思うセンスの人たちが集まります。そうやってこのマンション、ひいてはこのまちの価値が上がるのでは」。その言葉でオーナーの心は決まりました。オーナーと青木さんが、未来への眼差しを共有した瞬間です。

入居者第一号は、双子の赤ちゃんがいる丹生さん一家でした。都電家守舎の青木さんに誘われて内覧し、都心のど真ん中とは思えない静かさと眺望の良さが気に入って、入居を決意したのは2014年12月。3ヶ月ほど打ち合わせを重ね、期待と不安を胸にDIYリノベーションを開始しました。

STEP 03 カスタマイズ賃貸は、愛着の連鎖を生む

「いつ退去する?次に住ませて!」と言われる部屋に

赤ちゃんを育てている部屋とは思えないオトナのセンスでまとめられている。中央にある黒っぽい箱はストレージルーム。壁塗りをした丹生さんの手には苦労の跡が。

いよいよ計画、そして作業に着手すると、想定通りにならないこともいろいろ出てきます。計画中には家守舎から「あと70~80万は落とさなければ予算に収まらない」と言われたり、施工業者との意思疎通がうまくいかなかったり、予定がずれて壁塗りワークショップの人集めに苦労したり。「やってみて初めて知ることばかり。もっとぱっぱとできると思っていました。特に自分は塗装をナメてましたね(笑)」。そんな試行錯誤がありながら、丹生さん夫妻の理想の部屋へと一歩一歩近づけていく作業の日々が続きました。

約1ヶ月のDIY期間を経た4月。友達を呼んでパーティを企画していたまさにその日に、ようやく完成に至ります。「壁や建具など部屋のベースは無機質に。そこへ大好きなアンティーク家具や絵画、カラフルなこどもの玩具が入ることで空間を温めていきたい」という丹生夫妻のセンスで絶妙な居心地の良さが生み出されている空間は友達にも大好評。本当に賃貸なの?と驚かれた挙句「いつ出ていくの?次にこの部屋に住みたい!」という声もちらほらとか。仕掛人の青木さんは「賃貸の部屋は誰もが住み手になれる可能性がある。だから訪れた人たちは、ごく自然に、住みたい部屋かどうか値踏みするんです。厳しい視線ですよ」と笑います。

STEP 04 住み手を育てるDIYリノベーション

「欲しい暮らし」のつくり方を、練習できるのは賃貸だから

友達を招いてパーティしたいという希望通りのパーティが、お披露目として開催できた。皆が囲めるアイランドキッチンを中心に会話の花が咲く。DIYの苦労が吹き飛ぶ楽しいひととき。(撮影:丹生隆)

住み始めて半年経った現在。双子ちゃんは1歳半に成長し、部屋はすっかり丹生

カラーに染まって落ち着いていました。「毎日、この空間に帰ってくるのが楽しいです。こんな暮らしが賃貸でできるなんてね」とご主人は顔をほころばせます。

丹生さんが支払った初期コスト50万円は2年間で分割され、毎月2万円が家賃から引かれます。3年後には、現在の家賃126,000円+管理費7,000円に2万円が足された通常の家賃額になりますが、この部屋をとっても気に入った丹生さんは「ここが終の棲家ではないなんて寂しいくらい」とのこと。どうやら、住まいへの愛着は、かけた手間暇に比例しているようです。

一方で、未来にも思いを馳せる丹生さん。「今回の経験を次に生かせるのはありがたいことです。普通、持ち家を建てる時に、おろおろバタバタしてしまう家づくりを、ここで練習することができたから」。カスタマイズ賃貸は、住み手を成長させる “住育”の場となっているのが分かります。

ちなみに丹生さんは、自分の暮らしを自分でつくることを知ってしまったが故に、ちょっぴりの不自由も生まれているそう。「だってもう、普通の賃貸には住めない感覚になっちゃったでしょ(笑)」。

STEP 05 「暮らしの舞台」をつくり続ける

住む・働く・暮らす誰もが、まちづくりの当事者となるということ

まちの人々の「こんな場所があったらいいな」という思いが、「こんな場所があってよかった」とみんなが集まるまちの食堂、"都電テーブル"を生み出した。(撮影:都電テーブル)

こうして見ると、要町ホワイトマンションの経営は斬新なように見えますが、長らく不動産業を手掛けてきたオーナの浅原さんに青木さん達は「結局、不動産業は”人”ありき。昔はもっとちゃんと”人”と向き合う商売だったけどいつしか忘れてしまった。それを君たちは今、やろうとしている。時代は一回りしたようだ」と励まされたと言います。住み手という”人”を真ん中において、まちづくりを進める家守舎の本質を見抜いての一言です。

家守社が大事にするのは、住む人、働く人、暮らす人を、お客様扱いしないということ。「要町ホワイトマンション」の丹生さんの事例で言えば、関係者みんなでお金を出し合い賃貸物件の価値を高めました。借主もオーナーも家守舎もみんな等しく当事者です。都電テーブルでも、働く人やお客さんなどそれぞれの立場からの「こんな店がほしいな」という思いが店を成長させていくしくみが作れれば、関わるすべての人が当事者となります。まちは建物でつくられているのではなく、”人”によってつくられている。そこに立ち返っていくのです。

「僕たちはこのまちが好きで暮らしています。だからこそ、子どもの世代にも”住みたい街・住み続けたい街”を受け継いでいきたい」と、青木さん。これから近隣で立ち上げられる『株式会社シーナタウン』をはじめとする新しい家守舎をリードする存在として、『都電家守舎』は暮らしの舞台づくりに取り組み続けます。

 

これまでの都市の暮らしは、住む場所と働く場所が離れていることが一般的でした。それは多くの不都合を生みながらも、越えられない壁として認識されてきました。しかし、『都電家守舎』はその認識を覆し、”豊かに暮らす”という言葉の下に職住超近接型のライフスタイルを実践し、発信しています。この動きが都市部で広がっていく未来は、そう遠くないかもしれません。

馬場 未織

Writer

馬場 未織

東京都生まれ。1998年日本女子大学大学院修了後、建築設計事務所勤務を経てライターへ。プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹で「平日は東京、週末は南房総」という二地域居住を実践。農家や建築家、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共にNPO法人南房総リパブリックを設立、理事長を務める。親子で自然体験学習をする「里山学校」、東京で産直野菜料理を提供する「洗足カフェ」(目黒区~2014年)、里山拠点づくり「三芳つくるハウス」、市内全域の空き家調査など手掛ける。著書に『週末は田舎暮らし』(ダイヤモンド社)、『建築女子に聞く 住まいの金融と税制』(学芸出版社)など。

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都電家守舎

2017.1.19更新

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