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5年間で約90軒。
空き家が町を変え始めた

空き家見学/善光寺門前「空き家見学会」 長野県長野市

善光寺門前「空き家見学会」ってどんなところ?

小久保 よしの

Writer小久保 よしの

ある門前町が、「空き家見学会」というイベントをきっかけに変わりつつあります。「空き家見学会」とは、賃貸可能で見学可能な空き家5〜6軒をスタッフがピックアップし、それをみんなで歩いて見て回る会です。開催されているのは、長野県長野市。毎月実施されていて、誰でも参加することができます。
参加するのは主に「古民家に興味がある」「住みたい」「お店を開きたい」という人たち。気になる空き家・空き部屋があった場合は、「何をしたいか、どのような家・スペース・店舗空間を希望しているのか」などを個別に詳しく相談した上で、後日大家や専門業者を紹介してもらえます。
なんとも気になる「空き家見学会」。その経緯や活動内容について、コアスタッフであり、地域のキーパーソンとしても知られている倉石智典さんに伺いました。

 

上)空き家はどれも歩いて回れるほどの距離にある。狭いエリアにある空き家の多さにも驚かされる(撮影:小野有理)

善光寺門前「空き家見学会」ができるまでのストーリー

STEP 01 こんな経緯から始まった

みんなで楽しみながら暮らすことが
街に活気をもたらす

右)「空き家見学会」のコアスタッフ、倉石さん。地元の高校を卒業後に上京し、数々の職種を経て帰郷した。2児の父親でもある(撮影:小野有理)
左)参加者は若い女性が多い。しかし、最近では年配者も増えている傾向にあるという(撮影:小久保よしの)

長野市は、年間約600万人が訪れる善光寺のある観光地。街にはいつも賑わいがあるものの、他地域と同じように空き家・空き地問題や住民の高齢化などを抱えていました。善光寺周辺の「門前町」と呼ばれるエリアでは、昭和30年代には約1.7万人だった人口が、平成22年には約6600人にまで減少したといいます。

そんななか、2009年に地元の編集チームや商店街青年部が「みんなで楽しみながら暮らすことが、街に活気をもたらすんじゃないか」という想いから「長野・門前暮らしのすすめ」というプロジェクトを始めました。内容は、イベントやワークショップの開催、冊子の発行、空き家の調査など。その一つが「空き家見学会」です。

現在「空き家見学会」のコアスタッフとしてその案内をしているのが、倉石さん。長野市出身の倉石さんは大学卒業後、観光業、都市計画業、不動産業などを経験しました。「2005年、32歳の時に長野へ帰ってきて、実家の工務店で仕事を始め、建築の世界を知りました。アイデアが形になっていくのがおもしろくて、夢中になりましたね」と振り返ります。

STEP 02 コアスタッフの事業と見学会の始動

郊外の空き家だけでなく
街中の空き家もおもしろい

上)移動の合間に、倉石さんが街の歴史などの説明もしてくれる(撮影:小野有理)
左下)元住居人の荷物を整理できず、住んでいた当時のままになっていることも多い(撮影:小野有理)
右下)時代を感じさせる風呂場。タイルなどに「かわいい!」と反応する参加者も(撮影:小久保よしの)

2010年、倉石さんに転機が訪れます。「東京R不動産」の活動やストーリーをまとめた本『東京R不動産』(アスペクト)を読み、その内容に衝撃を受けたのです。「これを長野でやりたい! これまでの仕事の経験も活用できる、と感じました」。そこで、同年に株式会社MY ROOMを設立しました。

偶然、同時期にスタートしたのが「空き家見学会」です。「空いている家に人が住んだら、街はもっと元気になるんじゃないか。自分たちの暮らしている街や空き家を実際に見てもらえれば」という趣旨で始まりました。

「最初はどんな人が参加するの知りたくて行ってみたら、改修しなくてもこのまんまの方が、安いし町並みが残るし、面白がられることが分かりました。実は当初、設立した会社では郊外の中古住宅を買い取って再販しようと考えていたのですが、街中もおもしろいと感じました」と倉石さん。専門資格を持っていることから個人活動として案内人をすることになり、自身の会社では空き家の仲介・リノベーションなどを専門とする不動産・建設・設計業を始めます。

STEP 03 事業内容と事業計画

誰かの「ここを使いたい」の実現に
伴走するプロフェッショナル

左)リノベーション前のイメージ図。壁面の塗装や窓枠などの材質について細かく指定されている
右)ついに完成。元旅館が、ゲーム会社のサテライトオフィスへと生まれ変わった(画像提供:倉石智典)

現在倉石さんは、「空き家見学会」などで空き家に興味を持った人がいた場合、まず建物を診断し、店舗であれば事業計画を一緒に練って予算を組んだ上で、どんな人がどう使いたいのかを大家さんに説明しています。「結婚の仲介人に近いかもしれません」と倉石さん。工事も引き受け、引渡し後の管理も担当しています。

空き家をリノベーションしてから借り主を募集するのではなく、空き家の状態から伴走していくのが倉石さんのスタイル。「借りる人によってデザインが違うのがおもしろい」といいます。

もう一つの特徴が“家賃交渉制”。「家賃は、用途、目的や期間によって大家さんや借り主さんと相談して決めています。双方の『それだったら貸せる』『それだったら借りられる』という関係を仲介しているんです」と語る倉石さん。家賃相場は5〜10万円だといいます。

同社の収入は、不動産仲介、設計、施工管理の請負の他、引渡し後の家賃の10〜20%の管理手数料。いい人に長く使ってもらえるほど、安定した収入が見込めます。一連の流れに関わり、全般を管理することで、収入面だけではなく、貸し主や借り主との信頼関係も構築しやすいメリットがあるようです。

STEP 04 エリアへの波及と実績

大反響。約5年で90軒ほどが
リノベーションを実現!

左)善光寺のほど近くにある物件。10年ほど空き家状態が続いていた
右)左の写真の状態から、数年前に雑貨店「Roger(ロジェ)」として生まれ変わった。今やこのエリアの人気ショップの一つだ(画像提供:倉石智典)

始めた当時は現在のようにリノベーションが注目されていなかったため、「『空き家をどうするの?リノベーションって何?』という時代でしたから、興味を持ってくださる方がどこにいるのか分からない。一年で2軒やるのが精一杯でした」と話す倉石さん。しかし、空き家をリノベーションしたゲストハウスやカフェの事例ができたことで「空き家見学会」に大勢が訪れるように。

「空き家を店舗や事務所に改修したのが今では80軒あります。その他に住居が10軒ほどあるので、合計90軒くらいですね。その6〜7割が市外・県外からの移住者です。20〜30代の女性が多いです」。こうしたペースでの展開は想像以上だったそうです。

改修してオープンさせた店舗や事務所が継続されている割合は、なんと9割。その理由は何なのでしょう。「長野・門前暮らしのすすめ」をはじめ、門前町で動いているプロジェクトには、いわゆるリーダーの不在のものが多いといいます。関係があるのでしょうか。

STEP 05 現在とこれから

プロジェクトに関わるコツは
自分と地域のそれぞれにメリットがあること

左)空き家を見学した後は、倉石さんらが「門前暮らし相談所」として希望者の相談を受け付ける。倉石さんには改修や賃貸までの全般を相談可。女性スタッフから小学校やスーパーなど、街の情報を聞けるのも有り難い
右)倉石さんが2Fに事務所を構える建物「東町ベース」。建物のオーナーは倉石さんで、ここのリノベーションも自ら担当している(撮影:小野有理)

「どのプロジェクトでも、どこで誰が決めてやっているという概念が僕らにはなくて、やりたい時にやりたい人が来てやる。でもみんな、顔が見える距離に活動拠点を置いている人たちだから、それとなくお互いの状況が分かります」。そうした地域のユルく自由な雰囲気が、移住者たちを活動しやすくさせているのかもしれません。

倉石さんにとっての『空き家見学会』も、「やりたい」ことの一つ。「まず自分が大事。楽しいし、仕事としても利用させてもらっているんですよね。僕は空き家を見ると、ワクワクして妄想するんです。よく飽きずに続けてるよね、と言われます。でも、案内した人や地域の人が喜んでいると嬉しいんですよね」。

今後については、まだ空き家があるため「もっと仲介していきたい。すぐに紹介できるものは20軒ほどあり、仕入れに行けば50〜100軒くらいはあるはずです」と話す倉石さん。「自分が暮らして働いている街が楽しくなると、翻って仕事が上手くまわり、暮らしやすくなるんです。今後、県内の各地域にも空き家を紹介できる人が増えてくるといいですよね」と、未来や希望を語ってくれました。

約5年をかけた毎月の活動の結果、90軒もの店舗・事務所・住宅が空き家を活用したことに驚きました。その中にはシェアハウスもあると聞いたので、おそらく100人以上が移住や引越をして門前町に拠点を持ったことになるのでしょう。

「見学会」という門戸を開くことで、街が少しずつ着実に変わっていく例を見せていただき、明るい未来のつくり方を学ぶことができました。

小久保 よしの

Writer

小久保 よしの

編集者・ライター。当サイトの他、雑誌『ソトコト』やサイト「ハフィントンポスト」などでの取材で全国を駆け回っている。地方のおもしろさに魅了される日々。

空き家見学

善光寺門前「空き家見学会」

2016.11.28更新

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